お経読みで、ある檀家さんの家に行きました。最近では、息子さん夫婦が対応してくださるのですが、その日は90才を軽く越えているおばあさんが対応してくださいました。非常に信仰の篤い方で、若い頃にはお寺の団参に毎回のように参加されていました。
「おばあさん、久しぶりじゃなあ、元気そうじゃなあ、いくつになったん?」
「お上人様、ありがとうございます。わたしゃあ、大正2年生まれじゃけど、あそこの○○さんより、2つも年下なんよ」
「そうじゃなあ、あそこのおばあさんも元気じゃなあ」
といった具合にたわいもない話をしていましたところ、
「ところで、お上人様、今日は聞きたいことがあるんです」
そう言うと年季の入ったずだ袋を出してきました。
「そろそろ行く用意をしょんじゃけど・・・。ここに、身延山でいただいた『霊山の契り』(注)が10枚あるじゃが、これを、持っていくのがええのか、家族のために残していくのがええのか、お上人様、どうしたらええじゃろうか。おかげで、私はここまで長生きをすることができたんじゃが、最近できたひ孫の成長が心配で、心配で・・・」
この年になってもまだ、自分のことより、家族を心配しているおばあさんの心に頭が下がる思いがしました。
「おばあさん、それはおばあさんがもらったんじゃから、持っていってお祖師様に見せてあげんと。また、息子さんたちが身延山にお詣りしてもらえばえんじゃから」
と応えると、最後にポツリと、
「お祖師様に会えるじゃろうか」
それはまるでお祖師様に会うのを楽しみにしているようなうれしそうなお顔でした。
(注)『霊山の契り』
身延山で輪番奉仕(給仕)をすると授与されるもので、中に臨滅度時の御本尊等が印されています。
心の散歩道VOL.23(2008年発行)より

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